集刊 TOMのコラム渓流に遊ぶ


魚信(あたり)

岩魚が好む岩陰の緩い流れ
 渓流釣りの魅力といえば、すれた魚にうまく合わせるとか、走る大物をばらさず足元に引き寄せるといったことであろう。もちろん釣れるに越したことはないけれど、私にとっては、魚信(あたり)を手元に感じることが、なによりの楽しみなのである。

 魚信とは、魚が餌に食いついてきて、それが糸と竿を介して手元に伝わってくる振動のことである。正確に言えば、振動がなく、糸についた目印だけが微妙に動くことも魚信ではあるが、私は手元にくるそれが好きなのである。なぜかといえば、餌に食いつく魚の強い生命力が、じかに伝わってくるからである。

 とくに岩魚はがつがつと食いついてくるから、手元にはごつごつという魚信がくる。渓流の源流部、陽もささない暗い淵にじっと住んでいる、岩魚の食欲と生命力を、ひしひしと感じることができるのである。

 日頃、意識せずとも、欲求などあからさまに表には出さず、人の欲求と折り合って生活しているけれど、そんなことにはもう飽き飽きしてしまっているのかもしれない。だから岩魚のようなシンプルでストレートな生命力に憧れるのだ。そんなことを思ったりしている。

岩魚です。愛嬌のある顔をしています。
(盛夏、南信・矢作川支流)
(2001/7/8)


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