集刊 TOMのコラム渓流に遊ぶ


フライとテンカラ

初夏・奥三河
 同じ毛鉤を使う釣りということで、数年前からフライフィッシングにも手を染めている。両者を比べてみて、ちょっと気づいたことがあるので、書いてみようと思う。

 フライはロッドにリールがついているため、ラインを短くあるいは長く出して、それぞれの場所に応じた釣りができる。テンカラでは、ラインや竿を替えればそれは可能だが、実際の釣り場でしょっちゅう替えるということはなく、ひとつのラインと竿を使い、足を使って魚との間合いを保つのが普通である。ただ間合いがいつも同じということで、単調な釣りになってしまうのは否めない。しかし逆にそれを長所と受けとめて、テンポよく釣っていくのがテンカラの良さなのであろう。フライはその点、ラインを長く出して遠くのライズに挑戦することが可能であるし、またラインの長さを決めてテンカラのように素早く釣り上がっていくこともできる。自由自在で臨機応変だ。

 テンカラでしばしば使用される竿は3.3〜4メートル、長めなので、目の前の流心をまたいだ向こう側を釣りやすい。撚り糸のテーパーラインは少しばかり重めであるが(といってもフライラインよりは軽い)、フロロカーボンの4号レベルラインを使えば、水に浸かっているのは毛鉤とハリスがちょっとだけ、毛鉤は自然に流れていく。また竿が長いので、細かく毛鉤を動かして誘い釣りをするには分がある。フライロッドは2.4メートル(8フィート)前後、短いのでラインを水に浸けて釣ることになる。しかし毛鉤が自然に流れるように、技巧をこらしたキャスティングやライン処理を行う。この面倒くさい作業が実は面白いところであって、予想通りに毛鉤が流れてそこに魚が飛び出してきたときの喜びといったら、筆舌に尽くしがたいものがある。また木々が覆い被さった狭い谷では、長いテンカラ竿を振り回すより、7フィート以下のフライロッドの方が軽快に釣りができる。

 少しばかりフライとテンカラについて書いてみたが、両者の大きな違いは何かといえば、それは合わせをしたときの感触であると私は思っている。フライロッドでは、ラインが竿先からガイドを通ってリールに繋がっているため、合わせたときの力が手元のラインによって分散吸収され、少し鈍い感触になるようである。それに較べテンカラでは、合わせたときに、「ゴン!」という強い衝撃がくる。ラインが竿先にくくりつけてあるため、その一点に力が集中し、それが竿を通して直接手元に伝わってくるのである。私はこの「ゴン!」という衝撃が、たまらなく好きである。毛鉤をくわえ反転して沈み込もうとする魚の力を、じかに感じることができるからである。

 フライをしばらくやっていると、「ゴン!」という合わせの衝撃を味わいたくなり、無性にテンカラ竿で魚を掛けたくなる。その衝撃は手元に伝わるというよりも、まさに直接にずしりと私の心に響いてくると言った方がいいのかもしれない。格好をつけた気障な物言いになってしまったが、どうしてもそんな感じがするのである。
(2008/3/27)


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