集刊 TOMのコラム能管を吹く


笛師に会う

 笛師に会ったことがある。竹の割れを防ぐために、冬でも暖房を入れない店内は、寒々としていた。呼びかけると、奥の薄暗い部屋から主人が顔を出した。

 能管だけではなく、龍笛や高麗笛、笙や篳篥も見せてもらった。漆には塵ひとつなく、丁寧に仕上げられており、新管ではあるけれど、古色蒼然とした趣が具わっていた。そして少しだけ細身で、それが主人のもつ雰囲気とも合致しているように見えた。笛談義だけでなく、世話話もした。時代遅れの仕事だけれど、それでも手作りの良さを求める人がいるおかげで、こうしてやっていくことができると言っていた。

 物事がめまぐるしく移りゆく今の世の中では、変化に対応できない人は、なんだか落ちこぼれのように思われてしまう。でも、平安や室町の昔から綿々と受け継がれた製法によって笛を作っている人が、ちゃんと暮らしていけることを考えると、ちょっとだけ、幸せな気持ちになれるのである。
(2000/10/29)


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