集刊 TOMのコラム能管を吹く


まっすぐな音

 笛を吹いていると、基本的な指付けでは満足できず、少し装飾音をつけて吹いてみたくなる。ちょっと上手くいくと、何だか自分だけの音ができたようで、ひとり悦には入ったりする。

 玄人の笛方にも、装飾音が特徴的な人、ビブラートがとりわけ効いている人など、様々なタイプがある。しかし、先日聞いた笛方の音は装飾音がほとんどなく、簡素な音使いであったにも拘わらず、充分にその場の雰囲気を醸し出していた。「ホー」とか「ヒョー」という、ひとつのまっすぐな音の響きだけで、もう充分なのである。

 私は、ちょっとばかり飽き性で、どうも奇を衒ったことばかり考えがちである。すぐに飽きてしまうのは、きっとできてもいないのに、できたものと勘違いしているからであろう。この笛方の音は、物事とまっすぐに向き合ってこそ、自分らしさが発揮されるということを、あらためて教えてくれるのである。
(2000/12/26)


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