集刊 TOMのコラム渓流に遊ぶ


我慢できない

和式毛鉤
飛んでいるカゲロウに似ています。
 和式毛鉤釣りでは、何度も毛鉤を打ち返しながら遡行していく。流れのあちこちを、ぴちゃぴちゃ叩きまくるので、はたから見ればずいぶんせわしない釣りである。

 一投に精神を集中してあたりをとる餌釣りとは違い、結構気楽に水面に毛鉤を打ち込んでいく。気楽にやっていても、魚の方から出てきてくれるのである。毛鉤に飛びついた魚を見て合わせることもあるけれど、私の場合、引き上げたら掛かっていたということの方が多いくらいだ。

 毛鉤を何度も同じところに打ち返していると、それはあたかも、カゲロウが水面に産卵しているように魚からは見えるのである。魚は目の前に羽虫らしきものがぽとりと落ちると、我慢できなくなって飛びついてしまうのだ。たとえ羽虫を適当にかたどった毛鉤であっても、確かめることなく喰いついてしまうのである。

 長いラインをたぐり、我慢できなかった魚の顔をじっとを見つめる。もう少し思慮深くなったらどうだと、助言したくなったけどやめにした。そういえば、週末になると我慢できなくなって、ついつい渓に立ってしまう自分とそっくりである。おお同志、仲良くやろうじゃないか。手を離すと、魚は冷たい水底にするりと帰っていった。 
(2002/6/1)


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