集刊 TOMのコラム能の詞章と中国古典


班 女 その1

 愛する人に思いを募らせるひとりの女性を描いた曲、『班女』には、「比翼連理の語らひ」という詞章があります。この「比翼連理」は、唐の白居易(楽天)の詩に詠まれ、しばしば夫婦の堅い絆を表す言葉として使われております。

 「比翼」とは、鳥のことでありまして、この鳥はひとつの目とひとつの翼しか持っておらず、2羽が寄り添ってはじめて飛ぶことができるそうです。「連理」とは、木または枝のことで、2本の木や枝が途中でくっついて1本になっているものです。よくヤドリギという寄生植物が枝につき、そのせいで枝と枝がくっついているように見え、それを連理の木として、祀ってあるところもあるようです。両者とも、夫唱婦随の姿として尊ばれております。

 さて、この「連理」ですが、もともとは王者の徳が世の中に行き渡ったときに現れる、めでたいしるしであったということです。それが唐時代あたりから、「比翼」とともに夫婦の契りを表すものとなったようです。

 それ以前は、「比翼比目」と言われておりました。「比目」とは、魚のことでありまして、ひとつの目しか持っていないので、これもまた2匹が寄り添わないと泳げないそうです(現在では、カレイやヒラメの類を、目が片一方に寄っていることから、比目魚と書きます)。鳥と魚、空と水とはいえ、やはり動物同士ですから、こちらの方が「連理」に較べて並び具合がいいように思います。この「比目」ですが、『弱法師』に、「比目の枕の上には 波を隔つる愁あり」という詞章がありますね。

 なんだか、細かいことばかり言ってしまいましたが、それにしても花子ちゃん、吉田君に会えて、本当によかったね。扇をしげしげと見つめる花子に、よかったよかったと、私は頷いてしまうのだなあ。
(2002/5/25)


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