班　女　その２

能『班女』は、漢の成帝に愛された、班�u�l（はんしょうよ）の故事を下敷きにしたものです。�u�lとは、帝に仕える女性の官職名です。彼女は、秋になると使われなくなってしまう扇に自分を喩えて、帝の愛が薄れたことを怨む詩を詠んだのでした。 　　　　あなたの懐に出入りし、 　　　　揺れ動いて風そよぐけれども、 　　　　秋がやってきて、 　　　　涼風が暑さを追い払うことを恐れております。 　　　　箪笥の中に置き去りにされ、 　　　　あなたの愛も途絶えてしまうのでしょう。 　さて、このような詩を読むと、彼女は怨み深くて、女々しい女性のように思ってしまいますが、次のような逸話も残っております。 　ある日、帝は彼女と一緒に車に乗ろうとしました。しかし、彼女はそれを断り、こう言ったのでした。「いにしえの絵画を見ると、賢い君主の隣には名臣がおり、愚かな君主の隣には妾（めかけ）がおりました。私が一緒では、帝の名を汚してしまいます」と。 　また、次のような逸話もあります。帝の寵愛が去ったあと、彼女は呪いの儀式をしていると、嫌疑をかけられてしまいました。しかし、そのときの弁明が大変にすばらしかったということです。何しろそれに感銘した帝から、黄金を賜ったほどでした。 　このように、彼女は、礼儀正しく、聡明な女性であったわけです。彼女は、訓戒の書物をよく読み、作法も古式ゆかしいものであったと、記されております。 　班�u�lといえば、怨み深い女性像が浮かんでしまいますが、こうした一面もあったということを、憶えておいていただければ幸いに存じます。 (2002/7/1)