集刊 TOMのコラムオートバイに昂ぶる


ふと、オートバイに気づく その1

 二十代の後半、ふと、オートバイに乗りたくなった。

 高速道路をクルマで走っていると、1台のカワサキのスポーツツアラーが追い抜いていった。それは高速で風を切り裂いていく強い緊張感と同時に、あらゆるものから解放された不思議な浮遊感を漂わせていた。

 サービスエリアにクルマを停め、目を転じてみれば、ワンボックスワゴンから、ほとんど寝間着姿同然の家族が、気だるそうに降りてくる。スポーツクーペのなかのカップルは、そこが外部から隔絶された自分達の部屋のように、人目を気にせず楽しんでいる。クルマとは、日常をそのまま引きずってきてしまう、乗り物なのかもしれない。

 この時期、私のなかでは、ある変化が起きていたように思う。それまでの私は、自分を枠に押し込んでしまうような、堅苦しい考え方をしがちであった。しかし、そんな態度には飽き飽きして、もっと自由な自分の在り方を探そうとしていたのである。

 今までの束縛を振り切り、別の次元へ飛び出すという行為を具現化したもの、それがたまたま私にとっては、オートバイであったのではないか、と考えている。
(2000/8/23)


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