集刊 TOMのコラム能管を吹く
【中之高音の演奏(.mp3 114kb)】


中之高音について

 能の笛には、舞とアシライの二種がある。舞はその名のとおり、シテの舞いとともに、拍子に合わせて演奏されるものであり、アシライは、人物の登場や、謡の最中に吹かれる、いわば効果音のようなものである。

 私はどちらかといえば、アシライが好きである。なかでも、唱歌では「ヒヒョー、ルーリー、ヒヒョー、イーヨー」と表される、中之高音(なかのたかね)がとりわけ気に入っている。このアシライは、短いフレーズではあるけれども、能において、非常に重要な役割を果たしている。能一曲がはじまり、人物がそろそろと登場するとき、この中之高音が吹かれるのであるが、この笛の音によって、一曲全体の雰囲気が決定されるといってもよいのである。なぜなら、飄々とした感じ、あるいは悲哀を込めた重い感じというように、様々に吹き分けることができるからである。

 私が、アシライ、なかんずく中之高音を好むのは、このいかようにも吹けるという特性のためと思われる。もちろん、舞も、軽くも重くも、また楽しくも哀しくも吹けるのであるが、アシライには、短い分だけ、その場の雰囲気に対する、濃縮された決定力が備わっているようである。朝、家を出るとき、自分のなかには、どのような中之高音が流れているのか、ちょっと耳を澄ましてみる。私にとって、それが笛を吹くことの第一歩なのである。
(2000/9/3)


次へ
inserted by FC2 system