集刊 TOMのコラム能管を吹く


能楽囃子CDの紹介

 数少ないのですが、能楽囃子のCDが発売されておりますから、ご紹介したいと思います。

『妙花 ―能楽囃子 静と動の世界―』(デンオン)
 全17曲収められておりまして、盛りだくさんな内容なので、これ一枚あれば、能楽囃子の全体像を知ることができます。笛方は、寺井久八郎(森田流)・一噌幸政(一噌流)です。熊野「村雨留」道成寺「乱拍子」などは寺井久八郎、養老「水波之伝」石橋「獅子」などは一噌幸政が吹いています。また、景清「松門之応答」(寺井久八郎)を聞くことができます。

『能楽囃子名曲集(ビクター邦楽名曲選2)』(ビクター)
 全8曲収められておりまして、それも「盤渉楽」「獅子」「猩々乱」といった難曲ばかりで、聞き応え充分な内容です。笛方は、藤田大五郎(一噌流)・一噌幸政(一噌流)・寺井政数(森田流)です。「鈴ノ段」は寺井政数の迫力ある笛に合わせて、山本東次郎が三番三を踏んでいるので、鈴の音と足拍子が聞こえてきます。また一噌幸政の「盤渉楽」は素晴らしく、時の経つのを忘れて恍惚としてしまいます。

『能楽 ―室町の仮面劇―(日本の伝統音楽)』(キング)
 笛方は、中谷明(森田流)でありまして、「中之舞」「神楽」などが収録されており、森田流の落ち着いた笛を、じっくり味わうことができます。「調べ」も入っております。一噌流・藤田流は音が高いので、天に昇華していくような清浄感を私は覚えます。それに較べ森田流は音が低く、地面から湧き上がるような土俗的・魔術的な味わいを感じます。どちらも特徴的で甲乙つけがたく、充分に聞き応えがありますね。

『観世流・舞囃子(四)』(能楽名盤会)
 藤田大五郎(一噌流)が笛を勤める、舞囃子集です。編集のとき間違えたのでしょうか、最後の「舞働」はなぜか森田流の演奏が入っています。このシリーズには、他に貞光義次・田中一次・寺井政数(すべて森田流)のものがありまして、往年の名演奏をたっぷりと聴くことができます。


 能楽囃子というと、なんだか高尚でとっつきにくいとか、あるいは古臭くってかなわないと感じるかもしれません。しかしじっくり聞き込んでみると、邦楽や洋楽、古典や新曲といった既成のカテゴリーを越えた、ひとつの「音楽」であることがわかると思います。これらのCD、一度手にしてみませんか。
(2001/6/19)


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