集刊 TOMのコラム渓流に遊ぶ


深山に住む魚


こんな細流にも岩魚は住んでます
 渓流釣りでは、あまごと岩魚をその相手とするのであるが、どちらかといえば、岩魚が好きである。岩魚は、主に渓流の最上流部に生息していて、これより下に多く生息しているあまごより、魚体は美しくはなく、味も少し落ちる。性格は獰猛で、あまごの幼魚を丸呑みにしてしまうので、あまご好きの釣り人からは、嫌がられているようである。

 この岩魚を求めて、山の奥深くに分け入ることになる。人の入った気配のない、支流のそのまた支流を遡行し、水たまりのような小さな落ち込みを見つけ、静かに下流から近づいてそっと糸を垂らす。ツンと引っ張られたあと、ゴツゴツという魚信があり、そこで合わせると、意外に大きな魚体が姿を現す。上げてみると、岩魚独特の習性で、蛇のように体をくねらせる。鉤を取って、そっと流れに返す。はじめは手の中でじっとしているが、急に気がついたように、岩の下に滑り込んでゆく。

 深山の厳しい環境のなかで、強く着実な生命力をもち、ひっそりと暮らしている岩魚の生の在り方に、私は憧れを抱いてしまう。そして夜、布団に入り、あの岩魚があの小さな落ち込みの岩の陰で、静かに身を休めていることを想像して、そっと目を閉じるのである。

上の画像の場所から、良い型が上がりました(26センチ)。源流部は餌が乏しいので、錆のついた、細長い体をしています。
(晩夏、奥三河・矢作川源流)
(2001/8/27)


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