集刊 TOMのコラム能の詞章と中国古典


猩 々 その1

 切能『猩々(しょうじょう)』は、酒の功徳をたたえて、猩々という生き物が舞う、めでたい曲である。この猩々は、酒好きのオラウータンと説明されていることが、多いようである。けれども、中国古典には、猩々についての様々な説が挙げられている。ちょっとのぞいてみることにしよう。

 最初に、猩々が登場するのは、戦国時代(紀元前403〜前222年)の『荀子』という書物である。猩々という生き物は、二足歩行して、身体には毛がなく(有毛・無毛の二説あり)、ほとんど人のようであるが、ただ、礼節をわきまえていないところだけが人と違うとある。そして人は、その肉をスープにしたり焼いたりして、食べるそうである。同時代の他の書物を見ると、猩々のくちびるは美味いと書いてある。

 前漢時代(前206〜後8年)には、猩々はしゃべることができるという説明がある。ただ、オウムと並んで述べられているので、口まね程度なのであろう。後漢時代(25〜220年)になると、ようやく猩々は酒を嗜むという説が出てくる。人は山中に酒を置いて、それを飲みにきた猩々を捕まえるそうである。

 それで、猩々が一体どんな生き物かというと、まるでわからない。現在確認されている生物としては、やはりオラウータンがいちばん近いように思われるし、これらの記述は想像上のものかもしれない。しかし、古代にほとんど人と変わらない生き物が存在していたということも、否定することはできないのである。なぞは深まるばかりである。
(2001/11/25)


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