集刊 TOMのコラム|能の詞章と中国古典 |
猩 々 その2
能の猩々は、赤い毛、赤い面、緋の袴という、赤ずくめの格好で登場します。猩々といったら、とりもなおさず赤色が連想されますね。色の呼称で、猩々緋というものがありますが、これは極めて鮮やか赤色のことです。また猩紅熱という病気は、高熱とともに、身体に赤い発疹が出るので、このように名づけられたようです。
さて、猩々とこの鮮やかな赤色とは、どのような関係にあるのでしょう。面が赤いのは、猩々が酒好きであるからと思われます。それでは身体が赤いのは、どうしてでしょうか。猩々をオラウータンとする説があるのですが、オラウータンの毛は赤褐色で、同じ赤系統に属すとしても、鮮やかな赤色とは、ちょっと違うような気がします。
中国古典を繙いてみますと、唐時代には、「猩血」という言葉が使われています。猩々の血は、鮮やかな赤色だそうです。明時代の『本草綱目』という書物には、猩々の血で毛織物を染めると、きれいな赤色になって黒ずむことはないと書いてあります。はたして、猩々がどのような動物なのかは、いまだわかりませんが、猩々の赤色は、その血の色に源があると、考えることもできるようです。
いろいろ細かいことを書きましたが、能で赤ずくめの猩々が登場すると、私は何ともいえない豊かな気持ちになります。血の赤色に、陰惨さより、溢れる生命力を重ね合わせているためかもしれませんね。(2002/2/11)