集刊 TOMのコラム釣りと中国古典


牛50頭を餌にする釣り

 中国古代の『荘子』という書物に、スケールの大きな釣りの話がありますので、ご紹介しましょう。

 ある国の王子が、太い縄と大きな釣鉤を作り、牛50頭を餌にして、山の上に坐り、大海に竿を振った。毎日粘ったところ、ようやく1年後に大魚を釣り上げた。それを干し物にして配ったところ、人民すべてが満腹になった。

 小さな竿に細い糸をつけ、細い溝で小魚を釣っているようでは、到底大魚は釣り上げられない。些細なことに拘っていては、大志を遂げることはできないと、この寓話は結んでいます。渓谷の上流部で、細いハリスに小さな虫をぶらさげて、小物ばかり釣っている私としては、頭の痛い話です。

 さて、この大魚は鉤に掛かると、深く潜行し、あるいは水面に躍り跳ね、その波紋は山ほど高く海水を揺り動かし、その響きは化け物のようであり、千里四方の人々を驚かしたとあります。『荘子』が古典として受け継がれたのは、このように描写が巧みであったからとも言われております。

 小物釣りの私の竿にも、まれに大きいのが掛かるのですが、このときばかりは、『荘子』の大魚釣りと同じ気分になるのであります。


小物のあまご(14センチ)。おぼこいね。
(盛夏、南信・矢作川上流)
(2001/1/15)


次へ
inserted by FC2 system