集刊 TOMのコラム渓流に遊ぶ


渓流雑記

●奥多摩
秋川(多摩川上流)
 都心から近く、釣り人が多く入るためでしょうか、魚が相当すれているように感じました。不用意に近づくと、かなりの速度で魚が逃げてしまいます。餌に対してもプチプチ突いてくるのですが、なかなか鉤掛かりしてくれません。小学生のとき、この川で遊んでから、渓流という場所が好きになりました。他の釣りをやらないのは、絶え間なく流れる渓谷の澄んだ水を、何よりも愛しているためかもしれません。

日原川(多摩川上流)
 2千メートルを越える東京の最高峰、雲取山より流れ下る水は、見事な深いV字谷を作り上げています。雨が降っていたので、いいかげんな時間に出掛けて、いいかげんな所で渓に入り、傘を左手に持ちながら、いいかげんに竿を振ったら、すぐに7寸のやまめが2匹掛かり、それでおしまいにして、いいかげんな時間に帰って来ました。こんな釣りもいいものですね。
南に開けた急斜面に
寄り添う、日原の集落


●甲州
桂川(相模川上流)
 北側の支流に入ってみました。お盆休みでしたので、家族連れが、あちらこちらで水遊びをしていました。こちらから挨拶して通り過ぎるのですが、なんだか胡散臭そうな目で見られてしまいます。渓魚の魔性に取り憑かれてしまっているのだから、普通の人から見れば、気持ち悪いのかもしれませんね。奥の方で、美しい燻し銀の甲州やまめを釣ることができました。

道志川(相模川上流)
 橋の上から魚を探していると、どこからかステテコ姿のじいさんが現れ、「あいつを釣りなせい」と定位する尺ヤマメを教えてくれ、またどこかに消えてしまいました。何度もいろいろなフライを流してみましたが、釣れないんだなこれが。


●木曽
阿寺川(木曽川上流)

底石まではっきりと
見える水は、コバルトブルー
 木曽は、テンカラ釣りの本場ということで、少しばかり緊張して、毛鉤を振り込みました。ねばってみたものの、結局一匹も釣れなかったので、木曽節を唄いながら、夕闇の林道を歩いて帰りました。三味線や笛を使わない木曽節には、素朴な響きがあって、私は大好きです。踊りもシンプルで、木曽の山谷と調和した、深い味わいを持っております。


●南信
根羽川(矢作川上流)
 夕まづめ、下流で釣友が粘っていましたが、私は釣る気がなく、いいかげんに落ち込みに餌を流し続けていました。すると足下から黒い影が急に飛び出し、回り込んで餌を飲み込みました。慎重に寄せてみると、大きな岩魚でした。無為自然な心持ちが、よかったのかもしれません。

平谷川(矢作川上流)
 険阻な源流に足を踏み入れました。大きなゴルジュがあって、高巻きましたが、渓に降りるルートを探すことができず、撤退しました。斜面をよじ登っている途中、私の物音に驚いた蛇が滑り落ち、下にいた釣友は、蛇の直撃を受け、仰天しておりました(……申し訳ない)。南に開けた明るくて美しい渓でしたが、岩魚には会えませんでした。岩魚は北向きの渓に多いという説は、本当でしょうか。
初冬には、渓散歩に
出掛けました
丸木橋が、ユラユラ揺れます


●奥三河
足助川(矢作川上流)
 最初に渓流釣りをしたところです。最上流部には岩魚もいました。支流の神越川では、鱒釣り場から落ちてきた虹鱒を釣ることができます。山に目をやると、美しい杉林が広がっています。虫が少ないということで、釣り師からは敬遠されがちだけど、手入れの行き届いた杉林は深閑として、なかなかいいものですね。

寒狭川(豊川上流)
 以前、オフロードバイクで、この辺りの林道をよく走っていました。ある渓筋の舗装林道で砂に乗ってしまい、飛ばされて斜面を転げ落ちました。それ以来、この場所から足が遠のいていましたが、竿に勇気を託して入渓したところ、転倒した場所の近くで、大きなあまごが釣れました。いろいろな思いが詰まった渓です。
今日は、霧雨になりました
支流・大名倉川

段戸川(矢作川上流)

夕まぐれは、魚が出ます
笛のせいではないような(苦笑)
 はじめて、毛鉤で岩魚を掛けたところです。昼間、毛鉤を打っても、まったく反応がなかったので、山ツツジの横に座って、笛を吹きながら夕方を待ちました。山の端に陽が落ちる頃、竿を携えていざ出陣。平瀬の岩横に毛鉤を打ち込んだところ、岩魚が喰いつきました。笛を吹くと、心が落ち着いて、殺気がなくなるのでしょうか。


●奥飛騨
蒲田川(神通川上流)
 北アルプス・穂高連峰を背景にした渓相は、雄大そのものです。 また、湯量の豊富な、すばらしい温泉も楽しめます。栃尾温泉付近には、川から引き込まれた小さな流れに沿って、散策の小道が設けられています。その流れを静かにのぞいてみると、あまごがたくさん泳いでいて、びっくりしました。

小八賀川(神通川上流)
 安房峠と飛騨高山を結ぶ、国道158号線沿いの渓流です。以前、オートバイに乗って、このあたりをよく走りました。久しぶりに、安房峠旧道に入ってみたら、往時の賑わいはすでになく、両脇の草木が生い茂り、静かな山道になっておりました。禁漁区のすぐうえで、立てつづけに、2匹のあまごを釣りました。


●奥美濃
石徹白川(九頭竜川上流)
 民宿に泊まりました。食事をしていると、ガラス戸一枚隔てた台所からは、家族団欒の声が聞こえてきて、なんだかうらやましいような気持ちになりました。あまごの塩焼きと唐揚げ、飛騨牛の朴葉味噌焼きを腹に詰め込んで、さっさと部屋に戻ることにしました。山奥なのに、谷筋は広く、流れは太いです。急な峠を下ってきて、この壮大な渓を目の当たりにすると、不思議な感じに囚われます。

庄川
 左岸の支流に入りました。熊が出没しそうな山奥なので、カウベルを腰につけて歩きました。それでも釣れそうな落ち込みを見つけると、音が鳴らないようにカウベルを押さえ、そっと近づいてしまうのでした。霊峰白山を源とする流れは、ことのほか清冽で、その冷たさは、晩夏だというのに、足が縮み上がるほどでした。

根尾川(揖斐川上流)
 西谷川は、懐深い奥美濃の山々から流れ出す、広大な渓です。水は、清冽そのものでした。河原に集まって、焚き火を囲み、猪鍋、鹿の刺身、山菜の天ぷらを、いただきました。山菜の天ぷらは、家で食べるよりも、採ったその場で揚げる方が、何倍もおいしいですね。採りたてということもありますが、やはり、新緑の渓の空気が、絶妙の調味料なのでしょう。
4月初旬は
春雨と雪代で、増水中

吉田川(長良川上流)
 この渓に沿った、せせらぎ街道という風光明媚な道がありまして、以前、よくオートバイで駆け抜けました。この道を走っていた、あのときの自分は、いったい何を考えていたのだろうか。毛鉤打ちに疲れて、ひと休みしたとき、こうしたことに思いを巡らすのも、私の釣りの密かな楽しみなのです。


●北勢
鈴鹿山脈
 登山の支度をして、緑溢れる沢筋を遡行しました。いかにも釣れそうな淵で糸を垂れていると、背中に気配を感じました。振り返ると、釣り師が腰を下ろして、見ているのでした。その淵では、一度も掛かったことがないと話してくれました。そう言われると、意地でも釣り上げたくなるのが人情というものですが、やっぱり釣れない。
晩秋は、竿を置いて登山
茅原の源頭をつめて、頂上へ

(2002/2/3)


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